まどか「ねえ、ほむらちゃん」

ほむら「どうしたの?鹿目さん」

まどか「ほむらちゃんはさ、クリスマスツリーって好き?」

ほむら「えっ?クリスマスツリー…ですか?」

まどか「うん」

ほむら「えーと…ふ、普通…かな?」

まどか「えー?普通なの?」

ほむら「は、はい…わたし、体が弱いから…冬はずっと家の中にいるから…」

ほむら「あんまり…外にでかけることがなくて…」

まどか「そっかぁ」

ほむら「でも、クリスマスは好きです」

ほむら「お母さんが美味しいご馳走を作ってくれるし」

ほむら「それにサンタさんからもプレゼントがもらえるから」

まどか「えへへっ、そうだね」

ほむら「鹿目さんもクリスマスは好きですか?」

まどか「うんっ、大好きだよ」

ほむら「ふふっ、あ!でもどうしてクリスマスの話を?」

ほむら「クリスマスはまだまだ先だよ?」

まどか「ん?それは…魔法少女のことでちょっとね」

ほむら「?」

まどか「ほら、私達はキュゥべえと契約して魔法少女になったでしょ?」

ほむら「うん」

まどか「その時に願い事を叶えて貰ったけど…」

まどか「実は魔法少女になる以外にも願い事を叶えてくれるものがあるって知ってた?」

ほむら「えっ?魔法少女になる以外に?」

まどか「うん、なんだと思う?」

ほむら「えっと…ま、魔法のランプ…ですか?」

まどか「ぶっぶー、間違いだよ」

ほむら「わ、わかんないよぉ…」

まどか「えへへ、実はね?その答えがクリスマスツリーなの」

ほむら「えっ?クリスマスツリー?」

まどか「うんっ」

ほむら「…?どういうことですか?」

まどか「ほむらちゃんは転校してきたばっかりだから知らないよね」

ほむら「?」

まどか「大丈夫だよ、教えてあげるね」

ほむら「は、はい…」

まどか「見滝原にはある言い伝えがあるの」

ほむら「うん」

まどか「クリスマスの季節になると街中にクリスマスツリーができるんだけど」

まどか「クリスマスの夜にそのクリスマスツリーにね?ある人と二人で行くと願い事が叶うんだって」

ほむら「そ、そうなんですか?」

まどか「うん、言い伝えだけどね?」

ほむら「すごいです!そんなことがあるですね!」

まどか「すごいよねぇ」

ほむら「あっ、でもある人と…ってどういうことですか?」

まどか「それはね?その…えっと…」

ほむら「鹿目さん?」

まどか「えへへ、ほむらちゃんには内緒だよ?」

ほむら「えぇ?ず、ずるいです…」

まどか「ねっ?ほむらちゃん」

ほむら「はい?」

まどか「クリスマスになったら二人で一緒にクリスマスツリーを見に行こうね!」

ほむら「えっ?いいんですか?」

まどか「うんっ!」

ほむら「えへ…」

まどか「クリスマスが楽しみだね」

ほむら「はいっ!」

まどか「えへへっ、その為にも見滝原を守らなきゃ」

まどか「頑張ってワルプルギスをやっつけようね!」

ほむら「うんっ…!」

まどか「そして二人でクリスマスツリーを見に行こうね」

まどか「約束だよ」

―――

――




ほむら「……」テクテク

ジングルベル♪ジングルベル♪

ほむら「……クリスマス、か」

ほむら「………」ファサッ

ほむら「…一体何年ぶりのクリスマスなのかしら?」

ほむら(実際は一年ぶりのクリスマス…他の誰とも変わらないただ一年ぶりの……)

ほむら(でも私は今まで同じ一ヶ月を何度も何度も繰り返した)

ほむら(数えきれないほど、気の遠くなりそうなくらい長い長い一ヶ月を)

ほむら(そして漸く私はその一ヶ月を越えることができた)

ほむら(たしかにそれは嬉しいことなのかもしれない)

ほむら(だけど……)

ほむら(私はかけがえのないものを失ってしまった)

ほむら(一番大切で守りたかった彼女を……)

ほむら(彼女はもうこの世にはいない)

ほむら(…いえ、そもそも存在すらしていない)

ほむら(彼女の存在は完全に消えてしまった)

ほむら(このリボンを残して……)

ほむら「………」テクテク

ほむら(もう誰も彼女のことを覚えてなどいない)

ほむら(一緒に遊んだ友達も、一緒に戦った仲間も、家族もみんな)

ほむら(誰も彼女のことを知らない…ただ一人、私を除いて)

ほむら(……でも私も覚えているだけ)

ほむら(会うことも話すこともできない)

ほむら(彼女の存在を感じることはもうできない)

ほむら(私に残されたものは記憶とリボンだけ)

ほむら(ただ…それだけなの)

ほむら「………」トボトボ

ほむら「クリスマス……」

ほむら(昔の私はクリスマスを楽しみにしていた)

ほむら(お母さんがご馳走を作ってくれたし、サンタさんからもプレゼントが貰えた)

ほむら(私にとってクリスマスは一年の中でも特に大好きで楽しみな一日だったはずなのに)

ほむら(今は心にぽっかりと穴が空いてしまって全く楽しめない)

ほむら「……」チラッ

ワイワイ キャッキャッ

ほむら(街中はクリスマスムード一色)

ほむら(みんなが楽しんでいるのがよくわかる)

ほむら(当たり前よ、クリスマスだもの)

ほむら(友達や恋人、家族…みんなそれぞれのクリスマスを楽しんでいる)

ほむら(本来なら私もその一員のはずだったのに…ね)

ほむら「…みんな…楽しそう……」

ほむら(街の中で私だけが別の世界にいるような錯覚がするわ)

ほむら(同じクリスマスを過ごしているはずなのに…)

ほむら「…寒い……」

ほむら(寒いのは当たり前…だって12月ももうすぐ終わるんだもの)

ほむら(でも私は体が冷えて寒いわけじゃない……)

ほむら(寂しいのか悲しいのかはわからないけど…とにかく心が寒い…)

ほむら(これは孤独だから…?)

ほむら(ううん、違う…そうじゃない)

ほむら(幸い…私は孤独じゃないわ)

ほむら(学校での友達は増えたし、一緒に戦ってくれる仲間もいる)

ほむら(私は一人じゃない…それはわかってる)

ほむら(でも、やっぱり心が寒い……)

ほむら(それは私の一番大切な彼女がいなくなってしまったから……)

ほむら(だから私はいつも心の中で寂しさを感じているのでしょうね)

ほむら「……会いたい…」

ほむら(でも、会うなんてことはもう二度とできない…)

ほむら(そんなことはわかってる…でもそれが尚更辛い……)

ほむら(この気持ちを晴らすことは…たぶん、できないのもわかってる)

ほむら(この気持ちを誰かに話すことも伝えることもできない)

ほむら(誰にもわかってもらえない……)

ほむら(…私はっ………)

ほむら(………)

ほむら(…さっきから何を考えてるんだろう)

ほむら(考えれば考えるほど切なくなるだけなのに……)

ほむら(私はそのためにここに来たわけじゃないわ)

ほむら(見たいものがあるから来たのよ)

ほむら「………ついた」

ほむら(ここには嘗て彼女に聞いたものがあるの)

ほむら(まだ魔法少女になりたてのころに彼女と約束した場所…)

ほむら「……きれい…」

ほむら(ここが彼女の言っていたクリスマスツリーなのね…)

ほむら(確かに綺麗だわ)

ほむら(……でも、綺麗なだけ…ね)

ほむら(……願い事を叶えてくれる…ね)

ほむら「はぁ……」

ほむら(ある人と二人で来ると願い事が叶うと言っていたわね…)

ほむら(結局、ある人とが何なのかは最後までわからなかったわ)

ほむら(……願い事…)

ほむら(……ここに来たら彼女と会える…そんな気がして来てみたけれど)

ほむら(…そんなむしの良い話しはない…か)

ほむら「…寒い……」

ほむら「そろそろ帰ろうかしら…?」

ほむら「ふふっ…何を期待してたんだろ…私……」

ほむら「………」ポツポツ

ほむら「……雨?」

ほむら「…ううん…違う……」

ほむら「……違うよぉ…」ゴシゴシ

ほむら(なに泣いてるのよ…私……)

ほむら(初めから分かっていたことじゃない……)

ほむら(彼女とはもう二度と会えない……)

ほむら「うぅぅ……」ポロポロ

ほむら「会いたい…あなたに会いたい……」

ほむら「うぅぅっ……」ゴシゴシ

ほむら「まどかぁ……」ポロポロ

ザワザワ

ほむら「っ……」

ほむら(いけない…みんな私を見てる…)

ほむら(当然よね…街中でひとり泣いていたら……)

「な、なに?これ?」

「雪…なのか?」

「でもこんな雪見たことも聞いたことも…」

ザワザワ

ほむら「……雪?」

ほむら「!!」

「ニュースだ!桃色の雪が降ってきた!」

「きれーい…!」

「どうしてここだけに?向こうは普通の雪だぞ?」

「もしかしてクリスマスツリーの言い伝え?」

「すごいよ!奇跡だ!」

ザワザワ

ほむら「……まど…か…?」

ほむら「まどか…なの…?」

ほむら「まどか…」

ほむら(姿も見えないし声も聞こえない)

ほむら(でも…この温もりは……)

ほむら(この優しさは…!)

ほむら「まどか…!」ウルウル

ほむら(まどかが会いに来てくれた…!)

ほむら(まどかはいなくなってしまったんじゃない)

ほむら(今もこうして私の側にいてくれるんだわ…!)

ほむら「まどかぁ……」

ほむら「あったかい…」

ほむら(あたたかいわ…さっきまでの寒さが嘘みたい)

ほむら(まどか…嬉しい……)

ほむら「ふふっ…えへへ……」

ほむら「まどか…!」

杏子「やっと見つけた」

ほむら「!」

杏子「こんなとこにいたんだ?探したんだぞ?」

ほむら「杏子…」

マミ「暁美さん!」

ほむら「マミも…」

マミ「良かった、黙っていなくなっちゃうんですもの、心配したわ」

杏子「でも見つかって良かったよ」

ほむら「…ごめんなさい」

杏子「まぁ無事ならそれでいいんだ、帰ろうぜ?」

マミ「ええ、私の家でクリスマスパーティーを開くわ」

マミ「ふふ、暁美さんが断っても誘うのをやめないんだから」

ほむら「……ふふっ、ありがとう」

杏子「よっし!それじゃ帰ろっか。あたし腹ペコだよ」

マミ「今日はたっぷり作ったからたくさん食べてね?」

杏子「ああ!言われなくてもそうるよ」

マミ「うふふ、暁美さんもね?」

ほむら「ええ」

杏子「あはは、それにしてもどうしてこんな所に来たんだ?」

ほむら「それは…」

マミ「クリスマスツリーを見に来たのでしょう?」

ほむら「…ええ」

杏子「ふーん?クリスマスツリーねぇ」

杏子「まぁ確かに綺麗だけどわざわざ見に来るほどでもないじゃん」

マミ「あら?佐倉さんは知らないの?クリスマスツリーの伝説」

杏子「はぁ?伝説?」

マミ「ええ、クリスマスの夜に恋人同士であのクリスマスツリーを見に来ると願い事が叶うって伝説よ」

杏子「へぇー、恋人同士か…」

杏子「ま、あたしらには当分関係ない話だよなー?ほむら?」

杏子「ってあれ、ほむらがいねぇ?」

マミ「ふふ、暁美さんならまだクリスマスツリーのところにいるみたいね」

杏子「いつの間に引き返してたんだか」

マミ「暁美さん、ひょっとしたら恋人と会っていたのかもしれないわね」

杏子「えっ?ほむらに彼氏なんかいたっけ?」

マミ「それはわからないけど…ほら」

マミ「暁美さんの回りにだけ、桃色の雪が降ってるでしょ?」

杏子「えっ?…あっ!ほんとだ!」

マミ「……素敵ね」

杏子「…そうだな」

ほむら「………」ジィー

ほむら(私はようやく前に進める気がするわ)

ほむら(今までのように過去を引きずって歩くんじゃない)

ほむら(明日に向かって歩けると思うの)

ほむら(だって…あなたが側にいてくれることがわかったんだもの)

ほむら「まどか」

ほむら「メリークリスマス」

まどか「メリークリスマス」

おわり